痛日記「システマチックで笑えない集団コント」
朝マック、葬式、子供の笑顔
朝は忙しいものらしい。
朝の駅前で無秩序に飛び交う「忙しい」の弾幕がなぜか僕の前ではちゃんと列を作り、イライラしながらも順番を待つ。僕は形式的な笑顔で無意味な呪文を放つのだ。
「いらっしゃいませ。」
ジャンクを和訳するとガラクタ、屑になる。つまり、僕が売ってるこれは屑飯ということになるのか。高カロリー、高塩分で栄養価が低い。空腹を埋めるためだけの食事が、安いだとか美味しいだとか本当にバカバカしくならないか?
ジャンクな店で、ジャンクな店員が、ジャンクな対応で、ジャンクな飯を出すという笑える状況に、金を払う人々…なんかこの世界全てが嘘なんじゃないかと思ってしまう。
このシステマチックで笑えない集団コントに加担しながら、僕は半年前の祖母の葬式のことを思い出していた。
祖母は兄弟で群を抜いて出来が悪い僕によく小言を言った。左利きの僕に「ギッチョはバカだ」とか「お前の兄はちゃんとしているのに…」だとか。中1の時、2歳下の弟に身長を抜かれているのをはっきりと指摘された時は普通に殺そうと思った。
そんな祖母が死だと聞いても、僕は何も思わなかった。
みんなお経の意味を分かっているのか?
謎の木の屑みたいなものを3度つまみ手をあわせる。みんなやるから僕もやる。何にも分からないまま2時間は過ぎた。
「ゴシュッカンです」
(ダメだ、脳内で全く漢字変換されない)
「今から千代さんのお身体は旅立たれます。最後に一言づつお別れの挨拶をなさってください。」
(ダメだ、1つも思い浮かばない)
弟は泣いていたが。
(焼かれて骨になり、僕の左手で持たれた箸に摘まれるというとはどういう気分なんだろう)
ふと我に返ると、もう朝のラッシュの時間は終わっていた。レジの向こう側の親子が楽しげにメニューを選んでいる。1歳くらいだろうか?男の子がオモチャのついた子供用のセットを選ぶ。
「出来上がり次第お席までお運びしますね。」
そう言って先にオモチャと飲み物を渡すと、男の子は嬉しそうに笑った。その笑顔に自然と心が和んだ。
子供はすごい。こんなガラクタでも、クソほどくだらないことでも笑う。徹底的に意味を排除して好きなように笑うのだ。だから、僕は子供の笑顔が嫌いじゃない。
そう思った時、僕の中でグチャグチャに絡まった思考が少し解けた気がした。
意味なんて、価値なんて本当にどうでもいいんだ。好きなものに触れると気持ちいいし、嫌いなものは嫌いなんだ。それでいいじゃないか。
この感じはあれだ、ニコチンに思考力を奪われるのに似てる。
そろそろ上がりの時間だ。
「お疲れ様です。お先に失礼します。」
そう言って僕はこの周辺で一番近い灰皿を目指して歩き始めた。